KanonSS
○再度警告です。親韓派の人は、読まない方が幸せに暮らせます。以下を読んで不快になった場合は、自らの責任で不快を選んだとみなします。


コリアンジェノサイダー
nayuki

第三話・近代編
「助けて香里〜」
「またなの?」
 飽きてはいないが多少うんざり気味に美坂香里は返事をした。復習予習も終わって授業のレベルから数段上回った参考書に目を通そうとしていたところだ。意気込んだところを出鼻をくじかれて、香里としては顔から机に倒れ込みたくなる。
 しかし受話器の向こうから流れてくる嘆願は悲愴めいた響きをかなり含んでいて、とても放置しておくには忍びない。香里は携帯電話のアンテナを最大まで延ばし、その方向が窓に向く恰好で耳に当て直した。
「相沢君が何かしたの?」
「ううん、そうじゃないけど」
「けど?」
「韓国の人が……」
 反射的に“切る”ボタンを親指が押しそうになるのを、香里は寸前で制御した。またあの子は懲りもせず国際けろぴーor……いやおそらく&いちご談義を試みて、誹謗中傷の渦に巻き込まれているのだろう。溜息をつきつつ自分のパソコンのスイッチを入れる。こんな問題には極力関わりたくないのだが、自分が関係したことで親友が危機に陥っているのを黙って見過ごすのも寝覚めが悪そうだ。
 起動とプロバイダ接続が30秒ほどで完了し、香里は覚えていたURLを直接入力した。すぐにもファイアウォールが反応するも香里は意に介しない。名雪にセキュリティ指南するだけあって、彼女の方は対策万全だ。ルータはもちろん、ミニタワーのLinuxマシンをサーバーにしてマシンルータの働きをさせ、さらにハブでWindowsマシンとMacマシンを並列させる構造である。Macの方は外部に向けてはWindowsに偽装してあり、万が一のハッキングにも対応出来るようにしてある。サーバーのLinuxとMac間のプロトコルを通常では使わないものに変更してあるのもポイントだ。
 参考までにWindowsマシンは彼女の妹に使わせている。経由するLinuxサーバーのログを調べれば、どのWebページにアクセスしたとかどんなメールをやりとりしたのか分かる、というのは秘密だ。
 「で、なんて言う題名のスレッドに居るの?」と電話機の向こうに尋ねようとして、その前に香里は目先に目に入った一つのスレをクリックした。やっぱり、と呟きが漏れる。スレッド名に“苺”と“けろぴー”がそのまま入っているのだから一目して瞭然だ。

:nayuki<あの、ですから……
:pkhh69<この糞チョッバリ!


 香里はこめかみの付近に頭痛を感じた。どういう経緯か知らないが、どうせまた韓国人の異常な自尊心を刺激してしまったのだろう。
「香里〜どうしよう〜」
「今回はどんな展開なの?」
「ええと〜、けろぴーひな祭りバージョンの話をしていたら、韓国の人が『日本文化は全部、韓国が教えてやった』って言うから……」
「から?」
「剣道とか柔道とか茶道とか色々と日本の文化はありますよ〜って言ったら……」
「たら?」
「全部捏造だ、って〜」
「ひな祭りから、どうしたらそこまで行くのよ……」
 香里の呆然とも混乱とも取れる疑念ももっともだ。韓国で常識となっていることと真実とはほど遠いことが多い。例えば2002年釜山アジア大会では、公式HPで『剣道も柔道も空手も韓国起源』と書いていたし(直後に日本から抗議があって慌てて訂正)、空手を母体として発展したとテコンドー創始者自身が明言しているのに『テコンドーは人類発祥から存在し……』と堂々と言えるほどのお国柄である。ちなみにテコンドーは韓国によると、古代韓国武術のテッキョンを元にして発展したと言うが、テッキョンなんてものは壁画から空想しただけで何も残っていない。その他の半島武術にしても、刀術はどう見ても日本刀(倭刀)を使用しているし、韓国相撲のシルムはモンゴルにもあって決して韓国独自のものではない。槍術は中国的だし、弓道に至っては弓の形自体が和弓と違う。
「で、今は何の話題になったの?」
「大名行列の話をしたら、それは韓国の文化を日本が真似しただけだって……」

:pkhh69<ハハハ〜.日本の侍は韓国の花郎のパク里〜.だから大名行列も朝鮮通信使のパク里〜

 そのパクリという単語自体が日本語なのだが。韓国人はそんなことすらケンチャナヨ(気にしない)のである。
「香里〜本当なのカナ? そうなのカナ?」
 香里は、栗の食べ過ぎでもしたのかしら?と疑問に思いつつも、子細は気にせず親切に返答してやる。
「違うわよ。確かにひな祭りは日本独自のものではなくて中国の風習が変化したのだけど、韓国の文化を輸入した覚えはないわ。茶道も空手もね」
「そ、そうだよね。安心したよ〜」
 というか、この程度のことで揺らぐ名雪の日本人としてのアイデンティティの方が、香里にとって頭痛だった。
「あのね名雪、今からネットでの韓国人の特徴を教えるから、私の言う通りに打ち込んで」
「うん、分かった。でもどうして香里がそんなこと知っているの?」
「敵を知らずに戦いを挑む方が間違っているからよ。あれから色々な掲示板で日本人と韓国人の討論のlogを読んだわ。そこから導き出した答えがこれよ」
 香里は携帯電話越しに、タイピングすべき言葉を当のチャットの本人である名雪に伝えていく。未だに名雪の打ち込み速度は初心者のそれだが、短期間で若干の向上が見られるところは将来有望だ。

:nayuki<朝鮮通信使は全部で何回行われて、どのような機会なのか知っていますか?
:pkhh69<ハハハ 一流大学を優秀な成績で卒業して一流企業で出世している俺が教えてやる。兄の国の韓国に野蛮人の倭人が頭を下げて頼んだ時だ


「まず第一の特徴『居丈高』。これは韓国人の討論文化が未熟なためね。朝鮮は儒教社会だったから、少しでも相手よりも年長で高学歴だと目下の者は目上の者に従うことが習慣だったの」
「え、でもそれは日本でも同じだよ」
「その程度が異常なのよ。しかも歪んでいたわ。江戸時代の日本では、喩え武士の行為でも非があれば町人の方が分があったわ。でも朝鮮では目上の者に絶対服従、白を黒と言えば逆らえない社会が何百年も当然だとして行われていたの。ほんの20年前までそうだったから、今でも生活に根ざしてしまっているわ」
 韓国人は年長者に対して礼儀正しいことを自慢することが多いが、年長者が年下に対して寛容かというとそうでは無い。そのことが討論にも影響し、最初に相手よりも格上だと宣言すれば相手が黙り込んで唯々諾々と従うのが当然になっているのだ。ではそれで礼儀正しいかと問えば、それはまた別の問題だ。現に、このように悪用して相手の言論を封じる手段として使い、無理難題をふっかけ、無茶を納得させる。
「じゃあ続きを打ち込んで」
「うん」

:nayuki<そんなことは聞いていません。何回通信使が来て、どのような機会なのかを尋ねているのです。
:pkhh69<そんなこと自分で調べろ! クハハ〜

「特徴その2『質問返し』。自分が知らなかったり都合の悪い質問されると、逆に質問し返して誤魔化すの。そして……」

:nayuki<12回。江戸時代の将軍が交代した時です。
:pkhh69<そうだ! 俺は最初から知っていたぞ.博識の俺に質問などするな! ハハハ


「……えーと。この人、博識?」
「違うわよ。本当に博識ならば、最初から即答しているわ。これも韓国人の特徴よ」

:nayuki<では、朝鮮通信使は将軍の交代の時に来ていたのですが、儒教社会では目上の者が目下の者の所に来るのですか? 中国皇帝は、朝鮮王の交代の時には使節を送ったのですか?
:pkhh69<ハハハ そんなことは自分で調べろ.お前は勉強が足りない.そんなことより 日本文化は全て韓国を真似していることはどうする!


「特徴その3とその4、『話題逸らしの誤魔化し』と『根拠のない決め付け』よ。自分が討論で負けそうになると、その話題から飛躍しつづけて、最後は砂漠の砂粒を一粒残らず数えさせるような泥沼にして、討論自体を腐らせるのが狙いよ」
「でもこの韓国の人、すっごい自信たっぷりに言っているよ。きっとしっかりした根拠があるんだよ」
「だったら聞いてみたら?」
 名雪は、自分で言葉を考えて質問を書き込んだ。香里の助けを無駄にしないように、慎重で最小限の内容に抑えて。

:nayuki<例えば浮世絵は日本文化の特徴だと思うのですが、どうでしょうか
:pkhh69<それも韓国起源だ
:nayuki<詳しく教えていただけませんでしょうか?
:pkhh69<そんなことはお前が自分で調べろ お前は勉強が足りない
:nayuki<あの、勉強不足ですから教えていただきたいのですけど
:pkhh69<ハハハ 倭人は勉強不足の無識〜
:nayuki<だから、浮世絵の元になった韓国の文化は?
:pkhh69<そんなことも知らないのか? そのくらい自分で調べろ!


 永久ループである。
「……えーと香里、どうすればいい?」
「だから言ったでしょう。韓国人は都合が悪いと自分の非を認めずに徹底的に誤魔化すわ。それにつき合っていると、討論自体が無駄になるの。こういう場合は話を誤魔化されずに本題に戻ることが大事よ」
 名雪はうんと返事して、再び香里の指示に従って発言をする。

:nayuki<本題に戻りましょう。朝鮮通信使が日本に文化を伝えたとおっしゃっていますが、具体的に江戸時代に伝わった朝鮮文化とは何ですか?
:pkhh69<陶芸だ
:nayuki<それは江戸時代前の、豊臣秀吉の時代です。
:pkhh69<ハハハ〜 秀吉の侵略を認めたな!!!!
:nayuki<また話題が逸れています。時代を間違えているのはあなたの方ですよ
:pkhh69<では性理学だ! 性理学が日本に大きな影響を及ぼしたことは分かっている! 韓国は兄の国だから弟の倭国は教えに従うのは当然だ!


「香里、性理学って何? 聞いたこと無いけど」
「儒学の一種ね。朱子学の一派だと記憶しているけど」
「うーん、確か江戸時代は朱子学を武士の学問だとしたから、やっぱり朝鮮から教わったのかな?」
「そんなわけないでしょ。儒学だって仏教だって基督教だっていろいろ教派があるわ。例えば日蓮宗は法華経を信じているけど、法華経を信じている仏教が全て日蓮宗から発生しているわけではないわ。日蓮宗は法華経の一派であり、法華経は仏教の一派よ」
「うーん、つまりこの韓国の人は、同じ朱子学だったというだけで日本は韓国の真似をしていると言っているの?」
「そういうことね。それに日本で性理学なんて知られていないのが、影響が強くなかった証拠よ。交流くらいはあったかも知れないけどね。第一……」

:nayuki<性理学は宋の時代に中国から朝鮮半島に伝わったものです。それは韓国起源ではありません。朱子学だって、中国から発生したものです。
:pkhh69<−


「……」
「……」
「……あれ? 返事が……」
「返事が途切れたわね」
 それまですぐに返ってきていた返事が中断されて、画面にはカーソルの点滅だけが動いている。そして待つこと1分。

:pkhh69<歪曲!

「え?」

:pkhh69<倭国は歪曲している! 倭国は兄の国の韓国から教わったことを隠蔽しているんだ!

「ええ?」

:pkhh69<お前は馬鹿だ! やはり倭人は捏造!

「ど、どうしてそうなるの〜?」
「これが韓国人の特徴その5『罵倒』よ」
 自分の主張が破綻し、誤魔化しも出来なくなると、このように相手を罵倒するだけになる。特に頻繁に使用される罵倒用語が『捏造』『歪曲』『勉強不足』であるが、どこがどう捏造で歪曲で勉強不足なのかはいっさい説明しない。一方的に決め付けて、論理的な会話はここに終結する。
「そして最後はこうなるわ。名雪、よく見ておきなさい」

:pkhh69<ハハ! では日本が韓国に教わっていない証拠を10秒以内に言え!

「じゅ、10秒以内なんて無理だよ〜」
「それにこれは『悪魔の証明』ね。悪魔という架空の物は存在する証拠があるはずが無いように、“存在しない物は証明出来ない”というのは刑法上でも常識よ。有るものを有ると証明することが正しいのに、無いものを無いと証明しろと言う無理難題を平気で言っているのよ」
 加えて言えば、『日本の文化は韓国起源』と言っているのだから証拠を提出するのは韓国側のはずである。しかし自分の身勝手な主張を日本側に調べさせようとしているのだ。極論すればこういう事である。「名雪は苺泥棒です。名雪は苺が好きなので、盗んだことがあるに違いありません。もしこれに反証したければ、17年間の人生で窃盗する時間が全くなかったことを証明しなさい。もし10分間でも空白の時間があれば、その間に窃盗したに違いないのだから、名雪は有罪です」……無茶である。だからこそ、『有ったことを証明』するのは原告側の義務であり、証拠を提出するのも原告なのである。

:pkhh69<あと5
:pkhh69<4
:pkhh69<3
:pkhh69<2
:pkhh69<1
:pkhh69<0! 勝った! 俺は倭人を論破した!
:pkhh69<勝った! クハハハハ〜!
:pkhh69<倭人の捏造が証明された!


「……どうしてそうなるの〜?」
「韓国人の特徴その6『一人で勝手に勝利宣言』ね」
 まるで子供のような行為であるが、ネットでの韓国人は本当にこういう行動をする。この韓国人の行為に直面した日本人は、相手が小学生か中学生ではないかと思って戸惑う。それは名雪も例外ではないようだ。
「この人、本当は子供なのかな〜?」
「でも自分で“一流大学卒”って言っていたわよ」
「どっち?」
「聞いてみたら?」

:nayuki<申し訳有りませんがあなたの発言は、一流大学卒業とは思えませんけど。もしかして私と同じくらいの年齢ですか? 私は10代の学生です。

 お友達になりましょう、との意を含めての発言だった。少なくとも名雪はそのつもりだった。

「……」
「……」
 今度の沈黙は長かった。というより返ってこない。既に10分が経過した。
「返事来ないね」
「もう居ないと思うわよ」
「え? でもさようならの挨拶もしていないよ」
「これがネット韓国人最後の段階『逃亡』よ」
 あまりに戯画的でにわかに信じがたいことではあるが、韓国人はWeb上の討論で不利になると決まって同じ行動をする。それはまるで同一人物が多人格を演技しているかのようだ。
話題逸らし誤魔化し→罵倒→勝手に一人で勝利宣言→逃亡
 この韓国人の黄金パターンを知らないと、正常な討論に慣れた日本人は戸惑うことが多い。
「で、でも香里、韓国の人って礼儀正しいんだよ。こんなことになるなんて、きっと何か私の方が悪かったんだよ」
「どうして誠実だと思うの?」
「だって韓国の人が自分で……」
「どこが悪かったと思うの?」
「えと……ええと……」
「名雪は特に悪いところはなかったわ。ただ一つ、相手の選択を間違えただけよ」
「うーん、でも怒らせちゃったらしいから、きっとわたしに何か問題があったんだよ」
「……ま、それがあんたの良いところだし、日本人の美点だとも思うわ」
「?」
「ところで名雪、相沢君がニコニコして背中に何かを隠しながら「俺は親切で良い奴だから、安心してこっちへ来い」って手招きしたらどうするの?」
「絶対逃げるよ〜。何をされるか分かったものじゃないよ〜」
「そうね。詐欺師が“いかにも怪しそうな格好”なんてするはずがないわ。必ず「私は誠実です」と言うような態度をするわね。それだけ分かっていればいいわ」
「??」
 韓国人は自称「我々は誠実で、老人に親切だ」「我々は嘘を嫌う」「我々は正直に謝る」と頻繁に言うが、それが真実だとは限らない。ただ日本人は、そんなに堂々と嘘を言うとは信じられないだけである。
 傍観者兼オブザーバーであった香里としてはその程度で済んだことであるが、当人の名雪はまた落ち込んでいた。
「うー……また国際会議に失敗したよ〜」
 そんなに大層なものとは思えないが。日韓翻訳掲示板での疑似チャットなどは香里には意味の薄い存在&行為ではあるが、名雪にとっては“一度くらいは成功したい”と拘り続けたいものなのだろう。確かに喧嘩別ればかりでは後味が悪いだろうし。
「名雪、朝鮮語は日本語に比べてずっと罵倒用単語が多いんだけど、どうしてだと思う?」
「え? 突然何?」
「これはね、日韓の討論文化の差が顕著に現れたものなのよ」
 急な話題の転換に名雪は戸惑う。ただ香里の話は、韓国人のそれと違って誤魔化しのためではない。
「韓国人……いえ朝鮮半島人の精神的荒廃は1330年前の統一新羅から既に始まっているのよ」
 知っての通り、新羅・百済・高句麗の3国で争っていた半島は、西暦676年頃に新羅によって統一された。その方法は、新羅が中国の唐の属国と自ら成ることによって、唐の軍事力を背景に他国を侵略していったのだ。
「この時、新羅は中国を宗主国として全てを中国風に変えたわ。自分たちの名前まで中国式に変えて、自らを『大唐国新羅郡』とまで卑下して中国文化礼賛したの」
「うん、それは歴史の授業で習ったことがあるよ」
「あら、起きていたのね」
「わ、わたしだって学校で一日中寝ているわけじゃないよ〜」
 その後は新羅国内で政治的腐敗があって没落し、再び半島は乱れる。そして高麗が勃興して支配者が変わる。高麗は一応、半島独自の文化を再興させようと努力したらしい。
「ところが高麗はモンゴルに完敗してしまうわ。そして元国の属国になるの」
 これは、日本への元寇に高麗が積極的に関わったことでも証明されている。
「そして高麗が李氏朝鮮に変わるんだけど、この経緯は知ってる?」
「うーん……憶えてない」
「やっぱ、あの時は寝ていたのね」
「うー」
 元国が衰退して行き、紅巾族(後の明国)が跋扈し始めた。そのとき元国は高麗に派兵を要求した。この派兵に応じた高麗は、李成桂を将軍とした軍隊を派遣したが、李は途中で軍隊を引き返して高麗王朝を攻め滅ぼしてしまった。この裏切り行為によって成立したのが、朝鮮王朝最後の李氏朝鮮である。
「李氏朝鮮、通称・李朝は明国に事大し、国名まで明皇帝に決めて貰ったほどなのよ。その後、明は清に滅ぼされるんだけど、李朝は最初は明に事大していたけど清が勝ち始めると途端に寝返って清国に事大し、明国の残党を大喜びで虐殺し始めるのよ。『大中華の明国が滅びれば、素晴らしい中華文化は小中華の我が国が正当後継者となる』と言ってね」
「そ、そうなの?」
「ええ。韓国の教科書ではいっさい教えていないことだけどね」
 その元主人への虐待ぶりは、新主人の清国も呆れたらしい。
 他にも元寇に高麗が積極的に関わったことも“モンゴルに強制されて仕方なく”と書き、さらに“倭寇を討伐するため”と嘘の美化をしている。さらにさらに“高麗の残党がモンゴルに抵抗したから、元寇は遅れた。日本は半島に感謝しろ”と大まじめに言う韓国学者も居る。本隊の高麗が日本侵略に積極的だったのに、一部が反対したからって何ほどのものだろうか? 結果的に高麗がモンゴルと結託して日本を攻めたことには変わりない。
「李朝は、自分が軍事クーデターによって成立した王朝だったから、逆に反乱されることを恐れて自国には強い軍隊を作らなかったの。代わりに明国や清国の軍隊に治安維持して貰うことになっていたのよ」
 しかしながら、韓国教科書では『李朝は80万人の軍隊を準備していた』と嘘を書いている。そんな強大な軍隊が本当にあったのならば、豊臣軍のたった2万の先鋒部隊に連戦連敗するはずがないのである。しかも別のページでは『軍隊として機能していなかった』と矛盾なのか修正なのか良く分からないことを書いていたりする。
「でもそれって平和な国って事じゃないの? 軍隊を持たないって良いことだよ〜」
「韓国人も同じ事で威張っているわね。でも実情は全く反対なのよ」
「え? 反対? どうして?」
「それを説明する前に、一旦日本の歴史と比較したいんだけど、良いかしら」
「う、うん。日本の歴史なら分かるよ」
「寝ていてもね」
「うー……香里、いぢわるだよ〜」
 香里はふと携帯電話を耳から離して液晶画面を見た。時刻は既に深夜に差し掛かろうとしている。受験生にとってはまだ中盤程度の時間帯だが、話し相手の爆睡娘には辛かろう。だから概要だけかいつまんで説明することに腐心した。
「日本は貴族社会から武家社会に移ったことは分かるわよね」
「うん、基本だよ」
「そうね。貴族社会は文化と形式重視だけど、武家社会は現実主義つまりはリアリズムよ。貴族的なロマンチシズムを追いかけている余裕なんか無い。力こそ全ての社会ね」
「わたしは貴族社会の方が良いな〜」
「甘いわよ。どうして貴族社会が没落したの?」
「ええと、やっぱり民衆のことを考えなくなったからだと思う」
「そうね。形式に凝り固まりすぎて、現実が見えなくなったのよね。でも武士は違う。民衆を蔑ろにすれば国力自体が低下し、結局は自分が他国に滅ぼされてしまうことになる。だから自分たちが生き延びるためには、自分たちだけではなく自分の国自体を豊かにしなければならなかったのよ。その考えが貴族と違う所ね」
「その後、封建社会になったんだよね」
「ええ。江戸時代になっても全国に小統治者を配置した封建制度が続いたわ。これが良かったのよ。各藩主は武士らしいリアリズムを持ち、自分の領地を豊かにすることに努めた。徳川幕府は少しの違反でも藩の取り潰しをするほどの厳しい規定を定めたから、各藩主も遵法を徹底したわ。さらに武士が戦闘集団から統治者になると、作法や教養も重視された。織田信長が茶道を取り入れたのは、野蛮な武士達に最低限の落ち着きを持たせようと画策したからだという説もあるくらいよ」
「うん。憶えているよ〜。江戸時代は町人文化も発達したし、全国各地の名産品もこの時に出来たものが多いんだよね」
「各藩が法律の範囲内で自分の領地を豊かにしようとした努力ね。それに鎖国をしていたおかげで海外に影響も受けることなく日本独自の文化を発展させたわ。また封建社会の成立は、近代民主主義に移行するための下地とも言われているの」
 まぁこれは話が長くなるから割愛して……と香里は一旦話を切った。
「これに対して、朝鮮半島はずっと貴族社会だったのよ。しかも自分で自分を守ることはしない。全て中国任せで、努力は怠っていたの」
「香里、そう言う言い方は良くないよ〜」
 名雪の言葉には少々の強みと嫌悪があった。悪い子を咎める口調だ。
「人種差別だよ〜。朝鮮の人だからって、そんな事言っちゃダメだよっ!」
「ねぇ名雪、例えば黒人に「黒い」って言ったらどうなの?」
「差別だよっ! 偏見だよっ! 悪いことだよっ!」
「そうね。常識的とも言える模範解答ね」
 対して香里は淡々としている。涼しさと言うより冷たさを感じさせるほどだ。
「じゃあ白人に対して「色白」って言うのは差別?」
「え? それは……悪くないと思う」
「そうね。誉め言葉に近いわね。黒人を黒いというのは差別で、白人を白いというのはどうして差別にならないの?」
「うー……」
「日本人に「黄色い」って言ったら差別になるの?」
「それは普通だと思う。っていうか、そんなこと普段は考えないし」
 香里の耳に当たっている携帯電話のスピーカーから、話し相手の混乱と戸惑いが伝わってくる。明確な言語でなくても、沈黙の間合いとか考え込んでいる時の唸りとかからだ。少し意地悪しすぎたかな、と香里は可笑しくなった。
「ごめんね名雪、少し困らせることを言ったけど、結局はそう言う事よ」
「どういうこと?」
「偏見とか差別というのは、自分がどう意識や認識しているかによって変わるの。そして事実を客観的に言うことと、差別はまた違うわ。そして区別と差別もね。あたしは韓国人の気質を客観的に言って日本人の気質と区別しているだけよ。ラテン系が陽気でドイツ人に悲観主義が多いと言うことが中傷になるのならば、もう何も言えないけどね」
「うー……良く分かんないけど、言いくるめられている気分だよ」
「今夜だけは騙されておきなさい」
 そうしないと話が進まないし……香里は心の中で呟いた。
「とにかく話を元に戻すわね。正常な韓国歴史学者は認識しているように、朝鮮半島は1300年前から事大と腐敗の社会だったのよ。中華秩序を模倣したから中央集権・一点集中主義が徹底され、法など有って無きがごとし。最高権力者の意志で全てが決定してしまっていたの」
「でもそれって徳川時代も一緒だと思う」
「まぁ犬公方ってのも無かったわけじゃないけどね。でも江戸幕府は封建制度だったから、現在の地方自治制度と似ていたわ。だから将軍といえども法には逆らえないし、徳川家を3つに分けたことで将軍の暴走への抑制にもなっていたわ」
 封建制度が近代民主主義への移項の過程であるというのはこういう意味である。現在の地方自治の基礎となるのが各藩であり、その地方自治体を束ねるのが江戸幕府であるに過ぎない。さらに徳川家自体も、形式的ではあるが、天皇の委任を受けた家来という立場だったのだ。法律によって秩序は保たれ、領主も最高権力者も民衆も遵法精神を正しく持つ……この下地があったからこそ、日本は明治維新を比較的スムーズに成功させることが出来たと言える。
「昔の朝鮮半島を想像するには、現在の北朝鮮を見れば良いわ。書記長一族が全てを掌握し、法律なんて書記長の感情一つで全て変わってしまう。だから法律を守るよりも、権力者にへつらうことの方が重要になり、民衆が餓えても国際的に批判されても何も感じなくなってしまうのよ」
「うー……北朝鮮と同じにするのは、朝鮮が可哀想だと思うよ〜」
「何言ってるの。もっと酷かったのよ」
 これは空想や推論だけではない。実際に李朝末期に朝鮮を訪れた外国人旅行者が、朝鮮の実態の非道さを様々な記録に残している。極東にあって李朝時代の半島は、最貧・最悪の地域であった。
「統一新羅時代から、半島の政治は嘘と裏切りと賄賂と収奪の世界だったの。家臣は王に政敵を蹴落とすための讒言を吹き込み、王は感情だけで取り調べもせずに家臣を死刑にする。王や重臣の機嫌を取るために賄賂が横行し、その賄賂の財源を稼ぐために民から収奪する。民が反抗すると中国に軍隊の派遣を要請し、問答無用で虐殺し、全ては反逆者が悪いと決め付ける」
「うー……でもでも、そんな酷いはずがないよ〜」
 名雪の良識から発せられたささやかな抵抗も、常識人としては当然だったかも知れない。しかし李朝は、その良識の想像を遙かに超えた悪政だったのだ。
「『士禍』という言葉が朝鮮にはあるわ」
「え? 何それ?」
「“党派による争い”って意味だけどね。李朝には最初は東西2つの党派があって、中期にはさらに別れて東西南北の4派になったわ。その4つが勢力争いをしたんだけど、負けた方はどうなったと思う? ほぼ全員が特に理由もなく死刑になったわ」
「え? で、でも、単に政治の考えが違うだけでしょ?」
「そう。ちょっとした主張の違いだけ。喪に服する期間を1年にするか3年にするかの違いで対立した党派があって、王に支持されなかった党派は死刑になったわ」
「そ、そんなぁ〜」
 李朝において、主張は国政を良くするための意見ではなかった。ひたすら政敵を蹴落とし、王に取り入って相手を貶めるための道具に過ぎないのだ。
「例えば、秀吉の半島出兵で、その前から朝鮮に『明国へ攻め込むから、その道として通過を認めろ』と通達していたことは知っている?」
「うん。ちょっとだけ」
「日本へ赴いて豊臣の意思を受け取った朝鮮使節は、帰国して王に伝えたの。正使は「日本は必ず攻めてきます」、副使は「日本は攻めては来ません」とね」
「ええ? だって豊臣秀吉はしっかり伝えたはずだよ〜」
「そうよ。でも正使と副使は、対立する党派からそれぞれ選ばれた人間だったの。反対のことを言った理由はただ一つ、『政敵だったから』」
「そんな……」
「李朝ではね、国全体の危機よりも、王宮内での権力争いや意地の張り合いの方が重要だったという馬鹿げた証拠ね。結局副使の意見が心地良いとして王は採用し、“日本は攻めてくるはずがない”と感情だけで決め付けてしまったの。だから秀吉軍が上陸してきた時は「どうして突然来たのだ?」と慌てたそうよ」
 結果、王は国を捨てて明国へ避難し、朝鮮半島はたった1ヶ月で秀吉軍に占領されることになる。国を預かっているはずの王や臣下が、現実の危機よりも自分たちの快楽や感情を優先していたためである。しかしこのことも韓国では『全て日本が悪い』『突然侵略してきたので、李朝は準備が間に合わなかった』ということになっている。朝鮮政府が現実的な対応をし、明国に早急に連絡していれば簡単に決着したことであるはずなのに。
「李朝500年の歴史を調べてみると分かるけどね、正常に政が行われた時代は一時期としてなかったわ。新朝鮮王は前王の政策を意味もなく否定して反対の政策をすることを是とする。喩え前王が善政をしていてもそれを襲用することはなく、とにかく感情的に否定することだけが方針だったのよ。李朝27代で、例外的な名君と言われた第4代王の世宗も、その政策は第五代王に否定されて良いところも受け継がれなかったの」
 朝鮮の習慣にはまた異常なものがある。『死後に名誉を回復させる』というものだ。朝鮮では、とにかく一時の感情だけで物事を決め付けてしまうので、ちょっとしたことで平気で死刑にしてしまう。その後で少し落ち着いて調べると無実であったことが分かるので、反省して名誉を回復させるのだ。これは日本人からすると奇異に映る。「どうしてしっかり調べてから罪を裁かないの?」と思うだろう。これは徳川250年で遵法精神が培われた日本人と、李朝500年で人治主義が徹底した韓国人との違いなのだ。
「今でも韓国人には証拠や根拠は重要視されないわ。嘘か本当かも分からないのに「○○が言っているから」だけで、感情だけで何でも決め付けてしまう。法律なんて有っても無視し、賄賂で何でも解決出来ると思っている。近代法では当然の禁止行為になっている事後立法や遡及効も平然と行われていたし、“名誉毀損”の名を借りて憎い相手を貶めることも現在でも続いているの」
「でも……韓国の人は、自分たちが誠実だって言ってるよ」
「相沢君が「俺は真面目だ」と言うのと同じね」
「うう〜……祐一と韓国の人は違う……と思う」
 説明は一段落した。名雪は感情的に納得し難いところがあるらしいが、これはこれで悪いことではないと香里は思う。自分と同じように理性だけで割り切ろうとすると、どこかで無理が出てくると言うことは一番良く分かっている。名雪には、今のままで居て欲しいと思う。
「さて、最初のことに戻るけどね」
「韓国には日本語に無い悪口が多いって事?」
「そう。朝鮮で連綿と続いていた悪習によって、朝鮮では冷静な理論や証拠よりも、とにかく大声で相手を弾圧することが討論の勝ちになってしまったのよ。だって正偽を決めるのは法律や証拠ではなく、為政者の感情だけだったんだから。どんなにしっかりした根拠を言って物証を揃えても、目上の者が「不快だ」と思えばそれで全てが終わり。簡単に殺されてしまうのよ」
「目上の人の感情に訴えかければ良いってことになるの?」
「そう。だから目上の者が自分の敵対者に対して悪い印象を持つように、単純で即効的な罵倒が発達したのね」
 そして『決め付け』と『その場の嘘』も同時に習慣となった。とにかくその場しのぎの言いくるめに成功すれば、論敵は目上の者の下した裁定により消去されてしまうのだ。後でその嘘がばれようがお構いなしである。だって、相手が死んでしまえば、嘘がばれても咎めるものは居ないのだから。
 これを、『声闘』(ソント)と言うらしい。正確な考証はいっさい抜き、大声で早口で居丈高に相手が発言する隙を無くした方が勝ちという中国・韓国の異常な風習である。勢いよく論敵を罵倒した方が勝ちなのだから、細かい論証や確固とした証拠など必要無い。口先だけの詭弁ばかりが発達して中身はどんどん薄くなる。
「でも日本はそんな罵倒は通用しないわ。いえ、必要なかったのよ。名雪、例えばあんたは「馬鹿! 馬鹿!」と感情的に連呼されるのと「私とは話が合いそうにもないので、もっと低質な人を相手にして自尊心を満足させていてください」と冷静に言われるのと、どっちが不快になるかしら?」
「うー……後の方の嫌みの方が気持ち悪いよー」
「そうね。日本人はそうなのよ。罵倒用語なんて開発する必要が無く、既存の単語を使った構成の妙で皮肉を言うのが効果的なのよね。これは平安時代の短歌や俳句などからの習慣ね」
「単純に悪口を言われても相手の方も同じレベルって気がするけど、皮肉だと自分が見下されているようで嫌だよ〜」
「ま、日本文化では、罵倒にも華麗さと教養の高さを要求されたという事ね。これは貴族社会時代の習慣を、武家社会の厳しい法律が濾過した結果かも知れないわ」
 日本では単純な罵倒は程度も教養も低い者のすることだと軽蔑される傾向にある。短歌や俳句などの難度の高い方法で華麗に迂遠に罵倒した方の勝ちなのだ。それが討論習慣における決定的な違いであり、ここに至った過程の結晶である。
 朝鮮では人治主義により即興的で感情的な言いくるめが討論の手法になり、日本では法治主義により根拠と証拠の提出による客観的な証明が重視された。また朝鮮ではとにかく殺す、先に言論弾圧しておくことが習慣になり、調査は後回しというのが習慣であった。対して日本では、法律に則って証拠や根拠が有って初めて刑が執行された。もちろん近代法や国際常識に近いのは日本の方である。
「さて、これで分かったかしら。韓国人と日本人の習慣はこれだけ違うのよ。韓国人の方式で討論すると、日本的な良心など都合良く利用されるだけよ。ちゃんと相手に合った対応をしておかないとね」
「うーん……」
 香里としては十分に説明しきったつもりだった。しかして名雪の反応は鈍重だ。まだ足枷が付いていて自由に動けないかのよう。
「まだ何か?」
「うーん。でもそれって、李朝の人が日本人より教養が無かったって事になるよ。韓国ってすごい学歴社会で、江戸時代よりもずっと文化が高かったんだよね?」
「韓国人がそう言っていたんでしょ」
「そうだけどぉ〜」
「李朝時代には両班っていう支配階級があったんだけどね、これは……」
 そこまで言いかけて、香里は視界の隅に映っているモニターに僅かな変化が生じたことを察知した。スクリーンセーバーが起動したのでもスタンバイになったのでもない。そんな長時間も話していたつもりはないのだ。せいぜい15分程度なのだが。

:pkhh69<日本人はどうした?

「あれ? この韓国の人……」
「また現れたわね」

:pkhh69<ハハハ 俺が恐ろしくなって逃げたか?

「……」
「……」

:pkhh69<チョッパリなどこの程度だ! 韓国人が本気になれば日本人は尻尾を下げて逃げていく!

「……えーと」
「これも韓国人の特徴よ。日本人が去るまで隠れていて、誰も居なくなると存分に罵倒し始めるわ。何もせずに見ていなさい」
「う、うん……」

:pkhh69<10代だと? クハハハ〜 お前のような子供が一流の俺と討論しようなんておこがましい!
:pkhh69<どうした うん? 返事は出来ないのか?
:pkhh69<ぶるぶる震えているのか? クハハハハ〜
:pkhh69<勝った! ウェノムは恐ろしくて口を閉じている! 正義は勝つに決まっている! 悔しかったら言い返してみろ! ハハ〜


 やりたい放題である。既に討論相手が居ないことが分かりきっている場所での、遠吠えである。事実、某日韓翻訳掲示板では、討論終了後に深夜3時間にも渡って俺様万歳の発言をたった一人で書き込みし続けた韓国人が居た。偶然巡回していた日本人が発見して某掲示板に通報、リアルタイムで監視・嘲笑されたのは記憶に新しい。
「ねぇ香里、返事をした方が良いかな?」
「しない方が良いんじゃない? この人の自尊心もこれで満足するんだろうし」
「そうだね……。もうこれ以上の争いはしたくないよ〜」
 携帯電話で通信し同じ画面を場所の離れた違うモニターで見ていた二人は、パソコンのスイッチを切って通常の生活に戻ろうとした。その時……

:pkhh69<返事が出来ないのはお前が病身だから〜

 ピクッ
 香里の頬が僅かに引きつった。
「か、香里、早くスイッチを切って」
 同じものを見ていた名雪が焦って心からの忠告をする。しかし既に遅かった。

:pkhh69<お前の家族も病身〜 お前の妹は精神障害者〜 劣等民族だ! クハハハハ〜

 バキャッ!
 名雪は携帯電話の向こうから、何かが握り潰される音を聞いた。蜜柑とかバナナとかの女の子でも力を込めれば可能なような柔らかいものではない。もっと硬質で、プラスチック製のコップとか像が踏んでも壊れない筆箱とか、そう言った類のものだ。
 そして静かな、地獄の底から聞こえてくるような低い声が伝わってきた。
「名雪、今からあたしの言う通りに打ち込んで。ちょっと文字が多いけど、頑張って貰えると助かるんだけど」
「だだだだだダメだよぅ〜」
「明日、放課後にイチゴサンデーをおごって貰うのと、登校したらクラス中から軽蔑の視線に晒されるのと、どっちを選ぶ?」
「どういう意味〜?」
「言葉通りよ」
 香里の親友をやって早数年、これはもう後戻りが出来ないことは悟っていた。しかし名雪は最後の一線を越えることを踏みとどまった。
「ダメったらダメだよ〜。これじゃあ、ずっと日韓友好なんて出来ないよっ!」
 悪循環の輪を断ち切る。それが名雪が自分で出来ること・すべき事だと信じた。日本人らしい自己犠牲の精神は気高いものかも知れない。この矮小な自分の意志が怒りに燃えた夜叉に通用するかは分からないが、とにかくするしかない。名雪はスピーカーの向こうから聞こえてくる次の言葉を、長い時間待った。いや、ほんの数十秒だったのが、やけに長く感じたのだ。どんな恐ろしげな発言かと覚悟して身を固くしていた彼女に、その柔らかな言葉は届いた。
「……分かったわ。名雪の頑固さに負けたわよ」
「え?」
「何? あんたを認めたと言っているのよ」
「あ、うん。ありがと」
 気が抜けた。どれほど過酷な未来が訪れるのかと畏怖していたのに、ここまであっさりと解決してしまうと拍子抜けだ。
「まぁいいわ。ところで名雪、メンテのためにちょっとそっちのパソコンを操作して貰いたいんだけど」
「いいけど、何?」
「まずは左下のスタートボタンをクリック、次にコントロールパネル、ネットワーク接続、インターネットオプションをクリック、出てきたウインドゥのセキュリティとプライバシーのつまみを一番下まで下げて」
「あっ、ちょっと待って! そんなに早く出来ないよ〜」
 名雪は何か良く分からないままに香里の指示通りに操作をした。途中で良く分からない警告が次々と出てきたが、香里が「気にしないで」と優しく言うので安心して任せた。ファイアウオールとか共有とか、どこかで聞いたような聞かないようなものも沢山弄る。
「で、最後にタスクマネージャでリアルタイム監視のプロセスを終了させたら、今送ったメールを開いて」
「メール? 電話で言えば済むのに」
「メールじゃないと出来ない事よ」
「? そうなの?」
 名雪は最もメジャーなメールソフトをクリックした。数秒後にウインドゥが開き、自動的に受信を始める。先日香里が調整した時には自動的に読み込む設定は解除してあったはずだが、先程の操作で元に戻ったらしい。
「開いたよ〜。あれ? なんだか自動的に送り返してるよ」
「そういう命令が入ったメールだからよ」
「ふーん、便利だね」
「さて、またもう一つメールを送ったわ。届いた?」
 名雪が“受信確認”のボタンを押すと、新たなメールがボックスに入ってくる。少し時間が掛かったのは、容量が大きかったためらしい。
「添付ファイルが付いているね」
「ええ、それを開いて」
「えーと、これかな」
 名雪は何の疑問も持たずにプログラムらしい添付ファイルを開いた。途端に一瞬、何か変な表示があった。しかし直後には平穏が戻る。
「? ねぇ香里、これって何のプログラムなの? 『BackOrifice2003』なんて聞いたこと無いね」
「……」
「どうしての香里?」
「ふーん、あんた、相沢君とこんなことしていたのね」
「は?」
「あら、こっちの写真はもっとすごいわね。あの時、姿が見えなくなったと思ったら……」
「な、何を〜?」
「こんな写真をtempフォルダに残しておくなんて不用心ね、名雪。HDDの消去はしっかりやっておくものよ。それが喩え、相沢君があなたに内証でやったことでもね」
 名雪のPCのHDDランプが何故だか激しく動いている。通信をしていないはずなのに、データが頻繁にやりとりされていることが表示からも確認出来た。
「香里〜何をしたの〜?」
「ちょっとハッキングさせて貰ったわよ。これであの韓国人を虐殺出来るわね」
 名雪は反射的にPC本体のリセットスイッチに手を伸ばした。香里に教えて貰った最後の手段である。途中を抜かして一気に最後に飛ぶのは良くないのだが、香里ほどの者を相手にした時にはこれしかないと思った。
 ポチッ
「……あれ?」
 ポチッ
 ポチッ
「あれっ? 消えないよ〜?」
「無駄よ。そんな設定は既に解除してあるわ」
「わ、わたしのけろぴーを踏み台にした〜?」
 まこと見事なまでのソーシャルハッキング例だった。
 ならばコンセントごと引き抜くしかない。名雪は、「それだけはやってはいけない」ときつく香里から注意されていた方法を敢えて選択した。きつく言われていると言うことは、ハイリスクだが絶対的に有効な方法だと言うことでもある。
「そんなことしたら、写真がどうなるかしら」
「え?」
 名雪の体がピタリと停止した。そのまま数秒が過ぎる。
「あんたの行動なんてお見通しよ。電源ごと抜こうとしていたんでしょ。そんなことしてももう遅いわよ。写真のダウンロードは済んでいるから」
 名雪としては、冗談だと言って欲しかった。どんな写真なのかは想像が付く。あんなの公開されたら、もはやこの街から出て誰も知らない遠いところに引っ越すしかない。
「か、香里〜」
「冗談よ」
「え?」
「あんたも“冗談”ということにしたいでしょう?」
「はぅ〜」
 逃げ道はなかった。さめざめと涙を流しながら、名雪は椅子に座り直した。モニターには未だに例の掲示板が映し出されている。親友が自分のPCを乗っ取っている間にも、韓国人は罵倒の言葉を書き込み続けていたらしい。

:pkhh69<ハハ〜 倭国は明治時代まで未開の地! 文化先進国の韓国に土下座して教わっていた!

 誰も居ないと分かった韓国人の暴言は留まるところを知らなかった。そこに新たな発言が書き込まれる。

:nayuki<半万年属国の奴隷風情が、驚異的な先進大国の日本に逆らって良いと思っているのですか?

「香里〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 数分前には自分が操作していたはずの画面には、勝手に文字が書き込まれていく。名雪にはとうてい真似が出来ない高速入力だ。

:pkhh69<チョォブ…
:nayuki<何を動揺しているのですか? 姑息な小間使いがこっそり小汚いこそ泥をしているのを、高貴なご主人に見つかったことのようですね。


 全て正確に翻訳されているとは思えないが、日本人がされたらとても頭に来る韻の踏みようである。

:pkhh69<ハハ〜 黙れ! 文化後進国のくせに!
:nayuki<ところで白丁のあなたに聞いてあげます。日本では大名行列が通過する時には、平民は皆が地面に平身低頭することが義務づけられていました。でも朝鮮通信使が通る時には、日本の町人は二階の閲覧席から酒を飲みながら見下ろしていましたよ。どうしてだと思いますか?


「香里、『白丁』って何?」
「李朝時代の最下級の奴隷の事よ」
「ひぃ〜」
 日本で言えば、えた・非人のようなものである。ただし李朝初期において、賤民つまり奴隷は40%も居た。単純計算でも先祖が奴隷だった韓国人は2〜3人に1人のはずである。

:pkhh69<倭国が礼儀知らずの国だからだ!
:nayuki<その礼儀知らずの国を「我が国より発展している」「すばらしい」と言ったのは第二回通信使(1764年)の金仁謙でしたね。
:pkhh69<嘘だ! 捏造だ! 朝鮮通信使は倭国を野蛮な国と書いている!
:nayuki<今も昔も、朝鮮人は現実が見えて居ないと言うことですね


 金仁謙の書いた『日東壮遊歌』にはこのように記録されている。大阪を見ての驚き「三神山の金闕銀台とは まことこの地のことであろう」「人家が塀や軒をつらね その賑わいの程は我が国の錘絽(ソウルの繁華街)の万倍も上である」「北京を見たという訳官が一行に加わっているが かの中原の壮麗さもこの地には及ばないという」。
 名古屋を見ての驚き「山川広闊にして 人口の多さ 田地の肥沃 家々の贅沢なつくり 遠路随一といえる 中原にも見あたらないであろう 朝鮮の三京も大層立派であるが この地に比べれば寂しい限りである」。
 江戸を見ての驚き「楼閣屋敷の贅沢な造り 人々の賑わい 男女の華やかさ 城郭の整然たる様 橋や船にいたるまで 大阪、西京(京都)より三倍は勝って見える」。
 多少の誇張はあるかも知れないが、江戸時代初期でも日本は朝鮮以上に発展していた。しかし韓国では、この自分たちの国の記録すら隠蔽し、都合の良い箇所だけは引用する。それがこの京都を見た時の感想「惜しんで余りあることは この豊かな金城湯池が 倭人の所有するところとなり 帝だ皇だと称し 子々孫々に伝えられていることである この犬にも等しい輩を 皆ことごとく掃討し 四百里六十州を 朝鮮の国土とし 朝鮮王の徳をもって 礼節の国にしたいものだ」である。豊臣秀吉に為す術もなく侵略され、清国に征服され、没落の一途を辿っていても「朝鮮が本気になれば、倭国なんて下品な後進国はすぐに支配出来る」「蛮族の日本が高貴な我が国より発展しているなんて、何かの間違いだ」と非現実の妄想ばかりを膨らませていたのだ。

:nayuki<で、自分の先祖の記録に書いてあることはどうですか? これも捏造でしょうか?(笑)
:pkhh69<ハハハ そんなことより俺を白丁と言ったことを謝罪しろ! 俺は名門の両班が先祖だ!


「ふっ、また話題を変えて誤魔化そうとしているわね」
「香里〜もう分かったから……」
「あら、ここからが楽しいのよ。韓国人がずるずると底なし沼にはまって自滅していく姿がね。ふふふ……」
「う〜」
 名雪は、目の前に香里が居ないことがせめてもの救いだと感じた。もし近くにいたら良心に従って止めなければならないし、止めたら止めたで青春の破局が待っているような予感がする。無責任だとは思うが、今の自分はそれしか立場がなかった。せめて祈ることは、韓国の人が人生の破滅を自ら招く前に適当なところで逃げ出してくれることだけである。香里の撤退は望むべくもないのであるから。

:nayuki<名門? だったら先祖が残した日記や家宝がありますか?
:pkhh69<家系図がある! 歴史の短い倭人にはないだろう! ハハ〜
:nayuki<家系図なんていくらでも偽造出来ます。先祖の証拠を提示してください。
:pkhh69<家系図も分からないのか? 馬鹿よこいつ〜
:nayuki<では聞きますが、韓国人で正直に「自分の先祖は奴隷でした」と言う人が居ますか?
:pkhh69<−
:nayuki<どうしたのですか?
:pkhh69<俺の先祖は両班なの! それが絶対正しいの!


「香里〜、この人は絶対正しいって言っているよ〜」
「捏造に決まっているわよ」
「ど、どうして?」
「両班ってのは労働をしない支配階級よ。よく考えてみなさい。李朝初期には全人口の8%程度だった両班が、末期には50%以上になった。そして現在の韓国人は、ほぼ全員が「私の先祖は両班です」という。変だと思わない? 貧乏人一人が自分と金持ち一人を養うなんて社会が正常に機能出来ると思う? 全員が支配階級になったら誰が働くの?」
「それは……変だと思う」
 江戸時代でも武士の割合は10%前後で、80%は農民だった。残り10%が商人や職人である。領地を富ますことに腐心した武士でさえこの人口比で財政の維持が大変だったのだから、平民から財産を搾り取ることしか考えていない両班が全人口の半分になったら産業が破綻するのは当たり前である。
「でもこの韓国人の言っていることも半分は正しいかもしれないわ」
「え? こんな社会構成はあり得ないんじゃなかったの?」
「それが腐敗国家・李朝の末期なのよ。最後には、役職さえ金で売買されるようになったの」
 両班になれば働かずに好き放題に税を搾取出来る。本来は科挙という試験制度で合格するか親が功労があった者しか両班には成れなかったのだが、それが物品のように売買されるようになると下記のような状態になった。
 両班の地位を買った者は、まず自分が両班であることを中央政府に認めて貰うために家系を偽造する。これは両班が名門に限られていたことに由来する。現在でも韓国では金・李・朴の3つだけで全家の45%を占めている。これは勝手に自分を名門の末裔だと偽造することが流行したためで、家系図はあるがそれ以外の物証は無い。そして晴れて両班だと認められると、役職と偽造家系図を得るため支払った元金を回収するために滅茶苦茶な搾取を行う。平民達が反抗した場合には中央政府が治安部隊を差し向けてくれるので、どんな無理難題でも出来た。腹の中の子供や何代先までも税金をかけたことなどは有名である。
「そして遊んで暮らせるだけの財産を築くと、また両班の地位を他人売るのよ。こうして朝鮮人全人口の50%がいつの間にか名門出の両班だと言うことになってしまったの。さらに李朝が崩壊して身分制度が無くなると平民はこぞって「自分の先祖は実は両班だった」と嘘の家系図を作ることにしたわ。儒教思想に凝り固まっていたのね。こうして腐敗と偽造が横行した結果、あり得ないはずの『韓国人総両班』に成ってしまっているのよ」
 日本でも明治初期には家系の偽造が大流行したことがあった。しかし結局偽造しても先祖の証拠が無いし、神社や仏寺は有力な氏子や檀家の家系図が残されていたので、そんな破廉恥な習慣は廃れていった。
「それと、名雪、あんたは先祖が農民や商人だったとして恥ずかしい? 貴族や武家じゃないと嫌?」
「ううん。別に普通だよ〜」
「日本人はそうね。でも韓国人は違うわ」

:pkhh69<俺は名門の両班の子孫なの! 倭人は高貴な俺と話すことだけでも恐れなさい!

 朝鮮官僚の日本蔑視は、それはそれは執拗だった。豊臣軍の慶長の役の時に捕虜になった姜という役人は日本滞在の記録として『看羊録』を著した。姜は日本で儒学者して厚遇されたにもかかわらず日本のことを「犬や豚の巣窟」と見下し日本人のことには「倭(小人)」の蔑称を付けて書き残した。朝鮮人は君子、日本人は取るに足らない未開劣等人種と言うことである。
「うー……なんか聞いているこっちが恥ずかしくなってくるよ……」
 名雪は韓国人の発言を苦虫をかみつぶしたような顔で読んだ。今時こんな事を真顔で言う人間が存在していることが信じられない。からかわれているのではないのかと勘ぐりたくなる。
 これが育ちより生まれが大事な韓国の真骨頂である。これも儒教精神の弊害である。孔子の教えでは安定した治世の秘訣は『衣食足りて礼節を知る』と『君を君とし、臣を臣とし、父を父とし、子を子とす』であり、両方が備わらないと国は乱れる。しかし朝鮮では後者だけを拡大させ「政治が上手くいかないのは民が礼節を守らないからだ」と一方的に責任転嫁をする習慣が長く続いた。つまり上流支配階級は無垢であり、悪いのは全て最下層の連中であるとした。故に韓国人は自分の先祖は支配階級であるとほぼ必ず自称する。
 対して武家社会の日本では『衣食足りて礼節を知る』の方が真実だとされ、暗君は臣下や民に滅ぼされて当然だと考えられた。現在の日本では、本当の末裔以外は「私の先祖は武士」なんてことは言わないだろう。言ったところで「それであなたは先祖に恥ずかしくないほど立派なの?」とせせら笑われるのが関の山だろう。
 日本では先祖の自慢をする時にはまず本人の資質が高くないと説得力を持たない。しかし韓国では先祖が高貴だから当然自分も資質が高いはずだと認識されている。

:nayuki<で、本物の両班だったという証拠はありますか?
:pkhh69<うるさい! 俺の先祖は立派だから俺も立派に決まっている!

「香里〜もう止めようよ〜」
 名雪は何度言ったか自分でも憶えていない台詞を、また繰り返した。こんなことで羅刹が降臨した妹思いの姉が沈静化するとも思えないが、何も言わないのも気が引ける。そうこうしている内に、また発言が一つ追加される。

:pkhh69<糞チョッパリ! お前達が収奪したからだ!

「収奪ねぇ」

:pkhh69<そうだ! 日帝が俺の家から全てを奪っていったのだ! 酷いやつら!

「出たわね。韓国人の万能免罪符『日帝36年』」
「日帝って、ええと……大日本帝国のこと?」
「日本帝国主義のことでもあるわね」
 1910年に朝鮮は大日本帝国に併合された。そのこと自体は様々な要因が絡み合っているのだが、とにかく韓国人は全てをこれのせいにする。

:pkhh69<俺の家に先祖の証拠が残っていないのは日帝が収奪したからだ! 謝罪と賠償をしろ!
:nayuki<阿呆らしいですね、どうして犬畜生の小汚い日記などをいちいち取り上げる必要があるのですか?
:pkhh69<倭人は素晴らしい我が国の文化に嫉妬していたからだ!


「嫉妬って……」
 名雪呆然。あーんど自失。普通の日本人には思いつきもしないことである。日本人は中国が歴史的に長くて文化も素晴らしいことを認めているが、それを嫉妬のために破壊しようなどと思ったことなど無いだろう。
「ねぇ香里ぃ〜この韓国の人は、いったい何を言っているの?」
「韓国人の劣等コンプレックスそのものの発言よ。『我々韓国人は日本に劣等意識を感じている』という無意識を誤魔化すために『日本人こそ韓国人に劣等感がある』と根拠の無い妄想に取り憑かれているのよ」
「そ、そんな決めつけは良くないよ〜」
「名雪、最初に朝鮮と日本の習慣の違いを説明したわよね」
「うん」
「日本の思考はね、前文化を破壊するなんて考えないの。だって前支配者の遺産が素晴らしければ素晴らしいほど、それを手に入れた新支配者は旧支配者より勝っていることになるんだから」
 これは前支配者の良いところは評価して、現実主義で取り入れる日本的な習慣だ。日本が開国した時に、抵抗もなく早急に西洋文化を吸収出来たのも、この習性のためであろう。
「だけど朝鮮では、新支配者の正当性を誇示するために旧世代の全てを否定・破壊することが習慣なのよ。だから韓国人は『日本人が素晴らしい旧世代の文化財を破壊したに違いない』と、自分を基準に勝手に決め付けているのよ」
「そ、そんなぁ〜!?」
 だから何でも都合が悪いと日本の責任に転嫁する習慣が出来上がってしまった。事実は、日本は特に朝鮮の文化を破壊していない。そんなことをする必要が無いのである。なのに朝鮮には立派な文化財が全く残っていない。中国に事大して自国文化を否定し、前王の全てを否定し、腐敗政治で国全体を疲弊させていた朝鮮には、壊すものや奪うものは最初から何も無かったのである。しかし儒教思想で『我々の先祖は素晴らしかったに違いない』と夢想し『前支配者の文化を破壊する』ことが習慣だった朝鮮人は、『日帝が我々の素晴らしい文化を破壊し尽くしたに違いない』と根拠も証拠も全く無いのにしつこく主張している。
 例えば日本の国宝である日本の広隆寺『宝冠弥勒菩薩半跏思惟像』がソウル国立中央博物館に所蔵される『金銅弥勒菩薩半跏像』と酷似していることから、また材質が当時日本で使われていた楠とは違って赤松であることから、「日本の国宝は、百済で作られたものを輸入しただけ」と断言する韓国学者が多い。しかし赤松は日本にもあったし、第一、百済時代の木造仏像は一体も発見されていないのである。なのに勝手な類推だけで「日本国宝のほとんどは韓国製の輸入」「日本文化のほとんどは韓国人が教えてやった」と威張り散らしている。素直に考えて、木製の『宝冠弥勒菩薩半跏思惟像』より金属製の『金銅弥勒菩薩半跏像』の方が時代が後であるだろうし、同時代同地域でまったく発見されていない木像を手前勝手に想像するなんて愚である。確かに半島製という可能性は低くはないが、断定出来るような物証は皆無なのである。しかも、日本のものも半島のものも中国の弥勒菩薩像(山西省 雲崗石窟第5窟 如来形坐像頭部 北魏(五世紀) 弥勒菩薩半連像)に酷似している。どちらもインドから中国を経て伝わったことには間違いないのだから、互いに威張れる立場ではないのである。
 でも韓国人の頭の中では、すでに確定済みなのだ。全てに感情が優先し、快楽だけが真実である習慣によって、このような思考が完成する。

:nayuki<ぷっ、笑えますね。では朝鮮時代の立派な文化とやらは何ですか? 中国のものではありませんよ。朝鮮独自の文化財を教えてくださいね。
:pkhh69<お前は馬鹿なの! それを全て秀吉と日帝が破壊したの!
:nayuki<立派な朝鮮の武道や格闘術は、下品な倭国にあっさりやられましたよね? 韓国武術は口だけで弱くて話にならなかった証拠ですね(笑)。
:pkhh69<韓国は文化大国で平和国なの! 日本のような野蛮な国と違うの!
:nayuki<おやおや、武士も柔道も空手も韓国起源ではなかったのですか? 弱っちいお兄様ですね。賢弟は情けなく思いますよ(笑)。
:pkhh69<韓国は文化先進国! 世界一の文化先進国だったの! それを日帝が全て破壊したの!
:nayuki<ではどうして高麗や高句麗時代のものは残っていて、朝鮮時代だけは無いのですか? 日本が徹底的に破壊したのなら、数が多かったはずの朝鮮文化財の方が残り、年代が経って数少なかったはずの李朝以前の文化財は残っていないはずですね、お兄ちゃん。
:pkhh69<病身…
:nayuki<結局最後は罵倒ですか? 奴隷民族らしい、惨めな結末ですね兄君さま(嘲笑)


「ああ……もう見ていられないよ〜」
 もう3回目ともなれば、名雪にもこの後の展開は予想が付いていた。とりあえず最悪と最良の両極端を思い描いてみた。ささやかな希望としては、なるべく最良の方に傾いて欲しかった。しかし現実は無情にも、名雪の眼前のモニターに、最悪そのままの映像を流し出した。

:pkhh69<イルボンノムドルウンも捏造対局!
:pkhh69<君たちの日本政府が隠蔽していて君逹がモルルプンだと!
:pkhh69<やっぱり日本国民たちはウメする!


「またこの展開〜?」
 名雪の頭の中では、号泣が飛流直下三千尺に銀河から落つるかと言うほど零れた。同じく、意味不明な、おそらく罵倒かと思われる文字が滝のごとく流れ落ちている。
「ふふふ、韓国の罵倒用単語は日本語には無いから、何が書いてあるのかさっぱり分からないわね。怒りたくても怒れない。入力している方は必死でも、見ているこちらからすれば滑稽なだけよ」
「香里〜、もう気が済んだよね? ね? ねぇ〜?」
「そうね。ここまで悲惨だと、少しは慈悲の心が湧いてくるわね」
「うんうん。だからもう……」
「苦しめるのは可哀想だから、とどめを刺して楽にしてあげるわね」
「うぁーん!」
 分かっていた。分かってはいたが、やはり最愛の妹を中傷された香里の怒りを静めるためには、これしかないらしい。

:nayuki<ところでおにいたま、どうして江戸幕府は朝鮮通信使を中止したの?

 ピタリと怒濤の罵倒発言は止んだ。嵐の前の静けさが訪れる。香里はその合間に、別のワープロ画面を開いて二つの文章を完成させた。そしてまず一つ目の文章をコピペし、タイミングを見計らってuploadのボタンを押した。まだserverが受信し終わらない前に次の第二分文をコピペし、また登録する。

:nayuki<おっと「高貴で先進国の朝鮮は日本に行きたくなかった」なんて間抜けで無知な発言はしないで下さいね、兄上様。朝鮮通信使は、文化後進国の倭国に文化を伝えるのが仕事だって言っていましたよね?
:pkhh69<高貴で先進国の韓国が 倭国のような文化後進国には行きたくなかったからだ! クハハハ〜
:nayuki<次に兄チャマは「ウリナラマンセー」と言うです。チェキ!
:pkhh69<優秀民族 我が国万歳!!!!!!!!!!!!!!!!!


 絶妙のタイミングだった。“相手が勝ち誇った時、それがこのJOJOの勝利が確定した時さ”という台詞が、何故だか名雪の脳裏に浮かんだ。祐一に無理矢理読まされたのか、真琴が買ってきたものを読んだのか、記憶は定かではない。しかし状況はそっくりだった。

:nayuki<答えは『もう朝鮮なんかに学ぶものは何もなかったから』。元々将軍の権威を町人に見せびらかすためのpierrotの役割で呼んでいたのに、さらに500年間も変わり映えもせず停滞していたのだから、道化showにも飽きたのだよ。分かったかな? 馬鹿な兄くん!

「まぁ韓国人の思考・行動パターンは一緒だしね」
 電話機から勝ち誇った声が華麗に流れた。既に王の駒の前にチェックメイトの手を置いたような……そんな凍るような涼しさだった。高温に熱されたガラスは急激に冷やされると歪みが生じて自ら破砕される。涙目になりながら自尊心を赤熱化させていた相手には、このcoolさは致命傷になっただろう。名雪の第六感には、また極東のどこかで悶死の叫び声が上がったことが察せられた。そしてそのまま、荒れ狂っていたモニターは沈黙した。
「終了。またつまらぬものを斬ってしまったわね」
 この場合「お疲れさま」と言って良いものかどうか、名雪には判断が付かなかった。ただもう、この静けさが少なくとも今夜だけは保っていてくれることを切に願った。
「さて名雪、もう気が済んだからいいわよ。コントロールはそっちに返すから、後は好きなように……」
ピッ
 香里がかなり違法っぽいリモートアクセスを解除しようとした時、日韓掲示板に新たな発言が追加された。名雪には緊張が、香里には加虐の愉悦が再び走る。

:quizth<討論の内容を見ていました。お疲れさまです

「あれ? この人は……」
「また別の韓国人ね。余程マゾヒストが多いようだから、ご希望に応えて絶望の淵に落としてあげるわね」
「待って、待ってよ香里〜」

:quizth<私も韓国の教育が少し行きすぎたことがあると認めます.親日派は今でも売国奴と同じに扱われています.これは間違っています.

「え?」
「あら」

:quizth<韓民族は弱かったので李朝は属国でした.李朝の本当の姿を知っている韓国人は 決して朝鮮時代を誇らないです.
:quizth<独立した後には民族意識を高めるために過ぎた愛国教育をしていたことは分かっています.数年前までは北朝鮮を絶対に悪いと教えていたのに 急に親北朝鮮になったりと 韓国政府の態度が曖昧なのも分かっています.
:quizth<反日教育が強いのは30代以上の大人か低学歴の人で 高等教育を受けた若い人は日本が好きな人も多いです.これからはお互いに仲良くなるべきだと思っています.
:quizth<私は数日後には兵役に行きます.次に普通の生活に戻れるのは2年2ヶ月後です.だから再開することは難しいです.
:quizth<とにかく韓国人の全部が反日ではありません.信じてください.
:quizth<それではsayonara.arigato


 投げた小石が池に起こした波紋が静まったように、掲示板は再びカーソルの点滅だけになった。台風一過の後ではなく、鏡の水面がまた平たく戻っただけのごとく、荒い波頭の存在しない僅かで落ち着きのある涼風だった。
「この人は礼儀正しいと思うよ〜」
「……そうね。韓国人の中にも、冷静に話せる人もいるらしいわね」
「香里、反省してる?」
「……少しは」
 名雪は携帯の電波が届きやすいようにカーテンを半分だけ引いた。体ごと椅子をくるりと回転させて、携帯を耳に当てたままアンテナを窓の方に向ける。
「返事、しておいた方が良いかもだよ」
「必要ないと思うわ」
「素直じゃないよ〜」
「それも礼儀の一つよ」
 そうかな〜とくすぐるように言う相手に、怒りから冷めた方はぶっきらぼうに返事をする。なによ、何が言いたいの?ときつめに言ってみても、相手はクスクスと含み笑いをするだけだ。
 結局その日は二人ともそのまま寝た。明日は互いに、もう少し進歩があることを願って。


 第三話 終わり
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こんにちは

 朝鮮語には日本語には無い罵倒語や同音異義語が多く、機械で翻訳すると妙な変換がされていることが多々あります(誤訳例)。韓国人は必死に罵倒しているのに日本側にはそれが全く伝わっていないので、情動の温度差がまた笑えます。直接的な単語で怒る韓国人と、言い回しで気分を害する日本人の差でしょうね。
 こうなると翻訳掲示板では日本人が圧倒的に有利です。韓国人の罵倒語は翻訳不可能で日本人には届かないのに、日本人の皮肉は既存の語句の組み合わせなので正確に翻訳されるからです。
 韓国人も冷静な時には日本語に翻訳されやすいように標準語と正しい文法を使うのですが、興奮してくると韓国独自の通信語(ネットだけで通用する隠語・略語・スラング。日本では“氏ね”“逝ってよし”などが相当する)や口語体を書き込むので、翻訳機を通すと意味不明です。
 これによって相手の感情が手に取るように分かるのですから、コントロールするのは簡単です。「こいつは余裕を装っているけど、追いつめられてかなり興奮しているな」「この韓国人はまだ落ち着いているから真面目な話が出来そうだな」などです。

 では。

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